5/06/2011

アイ・ウェイウェイのヒマワリの種

小一時間のドキュメンタリーを見た。現代中国を代表する美術家、アイ・ウェイウェイ氏の表現活動の軌跡を描いたものである。現代美術に興味がない方も、北京オリンピックのスタジアム「鳥の巣」は覚えておられるだろう。あれをデザインした人だ。あるいは、四川省大地震で亡くなった子どもたちの鞄の表現を。政府への批判で監視下におかれ、ブログを次々と閉鎖させられたことをご存知の方もいらっしゃることだろう。
日本語字幕がなかったが、わかりやすく編集されてあり、ディティールでわからないところがありつつも、掴みやすいものであった。

今年4月3日に香港へ向かうためいた北京国際空港で国家に拘束され、いまだ消息不
明のアイ・ウェイウェイ氏である。



艾未未紀錄片:公平 (Ai Weiwei, Without Fear or Favor)
Produced and Directed by MATTHEW SPRINGFORD
bbc.co.uk



私は偶然みた美術展の紹介番組で、アイ氏の「Sunflower Seeds」のことを知っていた。(下にその展示の動画を添付)それは一億個を超えるのヒマワリの種を会場いっぱいに敷き詰めた展示で、直接その上を歩いたり中で過ごすことができる。セラミック製の種が歩く度に立てる音、(テレビではわからないけれど)その肌触りが鑑賞者に与える刺激に興味をもった。面白そうだ。

アイ氏の作品であるから「政治的」な意味も当然ある。夥しい数は増え続ける人口なのだろうか。なぜヒマワリの種が題材に選ばれたのだろう。中国人はよくヒマワリの種を食べていたが、そのことにも由来するのだろうか。番組では私が見逃したか、そもそも美術展の紹介だけに留まっていたのかわからないが、その意図はわからないでいた。そのひとつの意味を、このドキュメンタリーで知ることとなる。

Ai Weiwei: Sunflower Seeds at Tate Modern Turbine Hall, London / UK. Press View, October 11, 2010.


ヒマワリの種は陶磁器の産地である景徳鎮の職人1600人の手で、2年半の歳月を費やして作られたという。女性の職人たちが、ひとつひとつに4、5回筆をストロークして模様を描いている情景を見ていると、中国の工場で工業製品を組み立てるニュース映像を想起する。人件費の安さから世界中の工場が生産拠点としているというグローバルな現状と、伝統的な工芸品の制作過程が重なるのだ。

ビデオの中に、文化大革命時代の毛沢東主席をたたえるプロパガンダポスターがでてくる。ここに、ヒマワリ(向日葵)が描かれている。
文革時代、ヒマワリは毛主席を讃えるモチーフとして人気があり、忠誠心と絶対服従を示す表現でもあったという。「Sunflower Seeds」の意図のひとつがここにある。アーティストは表現の自由を奪われ、プロパガンダしか表現できなかった時代。その象徴であるヒマワリの種は、現代中国の歴史と芸術表現を語る上で素通りできないどころか、モニュメントでさえある。では文革後、自由な表現ができるようになったかといえば、常に監視下にあるアイ氏を見ればわかることだ。

ドキュメンタリーの最後は、ロンドンのテイトモダンの会場である。種を掲げ、ばらばらとこぼすアイ氏、それを撮影するプレス。種の上を歩き、寝転び、砂浜のように埋まる人々。ゆったりと座り、子どもの頃の記憶を思い出し、幸福感に包まれると話す女性。ピースフルなその光景を見ていて胸が締め付けられる。激動の中国の歴史を象徴する「ヒマワリの種」が、西洋の人々に癒しを与えている。そこに写るアイ氏は現在自由を奪われ、行方が知れない。


[参考]
※アイ・ウェイウェイ氏に関する記事を随時ブックマークしています。興味のある方はどうぞ。http://b.hatena.ne.jp/kaoruo/AiWeiwei/

アイ・ウェイウェイ(wikipedia)
Sunflower Seedsについて (Tate Modern/英語/インスタレーションの写真あり)
艾未未公式サイト 代表的な作品が見れる
インタビュー(ART IT)前編
インタビュー(ART IT)後編
販売している作品の数々(art net)