12/21/2012

スケートボードと希望

Pinterestをやっていたら「アフガン」とだけ説明文がついたこの写真が流れてきた。このスケートボードを持った少女を見た事がある、と自分のログを探してみた。見つけた!

少女の名前はFazila Shirindelさんといい、アフガニスタン国内で初めて首都カブールに出来たスケートボートスクール(NGO)「スケーティスタン」でインストラクターをやっている少女だ。スケーティスタンのサイトのチーム欄にアフガニスタンでトップの女性インストラクターであると紹介されている。(※2012年12月当時)

アフガニスタンとスケートボードという組み合わせが意外だった事と、彼女の可愛らしさ、滑りのかっこよさが強烈な印象を刻んだのだ。1年ぶりにまた彼女の姿を写真で見る事が出来て嬉しくなった。

彼女一人の写真が写真シェアSNSのPinterestにまで流れるとはすごい人気が出たものだと思ったが、しばらく関連情報を見ていると昨年このスケートボートスクールの映画が制作され、これはその映画の宣伝材料だという事がわかった。


私が最初に彼女を見た1分間の動画はこれだ。ものすごく可愛い。動画は14才の時のもので、スケートボードをしている様子と自己紹介で構成されている。
好きな教科は数学。スケートボードは自由な気持ちになれるので大好き。アフガニスタンに平和と自由が来る事を願っていると話している。




今週12月17日、アフガニスタンでタリバンの地雷爆発で10名の少女が亡くなる事件があった。少女たちが薪拾いをしていた際にそれは起こった。9才から13才の彼女たちの名前は、葬儀の取材にいったジャーナリストのムスタファ・カゼミさんの取材によると、 Khalidaさん, Freshtaさん, Nazifaさん, Basmaroさん, Salmaさん, Marziaさん, Fawziaさん, Marziaさん, Freshtaさんで、もうお一人の名前は見つけられなかったそうだ。

アフガニスタン、地雷爆発で少女10人が死亡(AFP 2012/12/17


3ヶ月前の9月8日には、カブール市内で起きた自爆テロによって6人の市民が巻き添えになって殺されたが、その中にスケーティスタンのメンバーもいた。Khorshidさん14才、Eezaさん13才、Nawabさん17才、Parwanaさん8才の4人だ。スケーティスタンの声明(TRAGIC LOSS OF SKATEISTAN YOUTH)に4人の写真がある。
Khorshidさんはスケートボードのインストラクターであり、160人の女の子たちのお手本になる存在だった。彼女の8才の妹Parwanaさんは最近メンバーになったばかりだった。EezaさんとNawabさんはスケーティスタン設立の頃からのメンバーで、Nawabさんはエクストリームな技で男子の競技会で勝っている。幸い命は取り留めたものの重傷を負った14才のNavidさんもスケーティスタンの人だ。
リンクしてあるAP通信の記事では犠牲となったのは「市民6人」となっているが、ほとんどが子どもたちだったとは・・・。

これがFazileさんが「平和と自由」を願うアフガニスタンの過酷な現実なのだ。

SUICIDE BOMB KILLS 6 NEAR NATO GATE IN AFGHANISTAN(AP 2012/9/8)
Teen skater kids among victims of Afghanistan's violence(CNN 2012/9/17)

via https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10151816342932747&set=a.318014717746.148033.75371167746&type=1






2010年に制作されたスケーティスタンを紹介する約8分のショートムービー 「To Live and Skate Kabul」には、スケーティスタンのサイトのアフガニスタンチーム欄にいるMerza Mohammadiさん(当時17才)、冒頭の写真のFazila Shirindelさん(当時12才)、設立メンバーのSharna Nolanさん(2008年から2010年までボランティア)が登場する。

アフガニスタンのMerzaさんとFazilaさんがどんな暮らしをしていた/るか、今何を考えているかを、戦争で破壊し尽くされた町をスケートしながら淡々と語る。二人とも空腹を抱えながら洗車をしたり、路上で物売りをして家計を支えていた。Merzaさんは洗車の仕事をやめてスケートボード施設のメンテナンスと指導を仕事にし、Fazileさんは上記でもご紹介したように学校(スケートボードスクール内に学ぶ場所が併設されている)に通いながらここでインストラクターをしている。

設立メンバーの一人でもあるSharnaさんは、スケートボードがどれほど子ども達を魅了し、よい影響を与えているかを語る。子ども達が互いに教えあう中で関係をより強固にしていく事や、勇気や自信を与える事について。少女たちがスポーツをすることの利点にも触れる。
12才のFazilaさんにとってスケートボードは大好きな趣味だ。周囲は意味がないからやめろというが彼女はやめたくない。ここでは語られていないが、アフガニスタンでは少女は12才までしか公園などの公共施設でスポーツをする事が出来ない。そこでスケーティスタンのメンバーは私設の室内パーク設立に動き出すのだった。

8分の内容であるが、映像が語るものの大きさといったらない。路上にかたまり何をするでもない子どもの集団。町の大人の目は絶望からか死んでいる。装甲車と銃とヘリコプターの隣で、当たり前の日常が営まれている。破壊され柱だけになった建物で、あたかも壁があるかのように椅子に座っている男性。瓦礫を器用によけながらスケートで前へ進む少年と少女。

アフガニスタンは人口の半分以上が子どもであるという。戦争は子ども達にも過酷な生活と人生を強いる。スケートボードで希望を見いだした子ども達ではあるが、この状況が終わらない限り安心は出来ない。今週の事件の10人の少女たちのように、KhorshidさんとParwanaさん、Eezaさん、Nawabさんのように突然人生が絶たれてしまうこともあり得るのだ。それも最前線ではなく、日常の一齣の中でだ。

「もう戦争は嫌だ。誰か平和を運んでくれる人がこの国に来ない限り、自分の将来には確信が持てない。」17才のMerzaさんの言葉だ。戦争をしたくて仕方がない大人たちに、この言葉は届かないのか。


SKATEISTAN: TO LIVE AND SKATE KABUL from Diesel New Voices on Vimeo.


2011年に制作されたドキュメンタリー映画 「Skateistan – Four Wheels and a Board in Kabul」 はユニセフ後援でベルリン映画祭の一環として開かれる「Cinema for Peace」で2011年最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。
そしてなんと、この夏、日本でプレミア上映されていた!しかも上映日の8月11日13日といえば、私も岡山にいたではないか(無人島キャンプ)残念!

 宇野港芸術映画座2012(岡山県)
『スケーテスタン〜カブールを走る4つの車輪とボードの物語』
監督:カイ・セアー、プロデューサー:レネ・コック、脚本/編集:ナディア・ソラヤ・ヘンリク、アフガニスタン/USA/ドイツ、2011、95分、ドキュメンタリー

映画解説(より詳しくスケーティスタンについてわかります)ぜひお読み下さい。
■抜粋引用:オリバー・パーコビッチとシャルナ・ノランが2〜3枚のスケボーを抱えてカブールにやって来たのは2007年。人口の半数以上が子供のこの国で、オリーとシャルナはまもなく、彼らのスケボーが磁石みたいに地元の子供達を引き寄せることに気付く。公園の使われなくなった噴水­に戦火に引き裂かれた町に残された数少ない滑らかな地面を見つけ、そこで何度かレッスンをしてあげると、近所の男の子や女の子らは毎日来るようになった。このささやかな出会いが後に、アフガニスタン初の男女共学スケボー・スクール、スケーテスタンの創設へとつながっていく。その軌跡を記録したものがこの映画である。
... ここでスケーティスタンが教えるのは、自分の意見をはっきり言えるようになること、個性を尊重する心、体力と自信、自分を大切にする気持ちと他者へのリスペクト、自立の精神、そして何より、スケボーへの情熱。登録した300人の子供達を対象に、健康的な生活習慣やコミュニティの中での役割を考えるクラスや、情報テクノロジー、アート、言語を学ぶクラス等が開講された。
.... 偏見や思い込みなしに、アフガニスタンの生活を描く。ありきたりでなく有効な救援のあり方と、もちろんスケボーへのオマージュとして。西側のメディアが報道してこなかったカブールの現実と、アフガンの子供達とスケーティスタンのスタッフ達の質素な暮らしを見てほしい。政治な意図はない。アマチュア・スケートボーダーのとあるグループが、戦争で荒廃した町の子供達に希望を運ぼうと、 民族的・宗教的・社会階級的な壁を乗り越えた姿の記録にすぎないー4つの車輪と1枚の板の助けを借りて。

IMDbで9.1がついている。すごい!

トレイラー




Skateistan公式サイト:http://skateistan.org/
facebookページ:http://www.facebook.com/skateistan
映画公式サイト:http://www.skateistanthemovie.com/
映画facebookページ:http://www.facebook.com/SkateistanMovie