12/09/2013

鮭にまつわるあれこれ



塩鮭製法の考察

鮮魚店の店先に新巻鮭が吊るされる季節となりました。寒風に干してある姿は初冬の風物詩で、年の瀬を感じる光景でもあります。塩鮭は私にとって年越し魚であるからです。
幼い時、祖父母の家に親戚中が集まりお膳を囲みました。正座や箸の持ち方を祖父に正されたことと共に、塩鮭の皮を残さず食べよと言われたことを昨日のことのように思い出します。私は皮が苦手だったので鼻をつまんで飲み込んでいましたが、大人になった今はその美味しさがわかります。

新潟県内では村上市の「塩引き鮭」が有名ですが、新巻鮭とは製法などが異なるそうです。また城下町村上ならではの腹の裂き方と干し方があります。上記写真の新巻鮭は腹を一直線に開き、頭が上になっていますが、村上のものは二つ割になっていて尾の方を上にして吊るしています。こちらの塩引き鮭専門店のサイトに画像があります。腹を二つ割にするのは「切腹を嫌ったため」、尻尾を上にして吊るすのは、「首吊りを連想させ縁起が悪いから」と聞いた事がありますが、はたして文化的な理由だけなのでしょうか。

作家の荒俣宏さんが「超博物誌」の中で鮭について連載しています。その3回目に村上の塩引き鮭の製法由来について、須藤和夫さんの著書『三面川サケ物語』(朔風車刊)を引きながら推理が展開されています。以下引用です。

1、頭を下にすると、サケの目が見やすい位置になり、塩引きの出来具合をチェックしやすいから。じつは、頭がいちばん乾燥しにくいので、目の部分を点検して乾燥具合を調べる必要があるのだ。
2、 頭を上にして縄でつるすと下半身にシワが寄って魚の姿が悪くなるから。
3、 下にすることで「いちびれ(胸鰭のこと)」に脂の旨味が集まるから。いちびれは正月の儀式に用いるサケの最重要部分である。

引用終わり。
1と2の理由は合理的に思えます。3についてはどうなのでしょうか。



イクラの醤油漬けをつくる

さて鮮魚店で私が求めたものはメスの生鮭です。身も大好きですが目的は筋子。筋子をばらしてイクラを作ろうと思い立ったのです。保存性を考慮し醤油漬けを作ることにし、こちらのレシピを参考にしました。http://ikura.nomaki.jp/

やってみると意外と簡単で、誰でも美味しく作れるものだと思いました。
行程を記録してみます。

1、生鮭は鮮魚店でさばいてもらいました。入っていた筋子の重量は770g。切り身は20個、それにアラとで約2.6kgでした。
切り身は美味しさが筋子にいっているのではと考え、塩をふってから味噌漬けと塩麹漬けに処理。アラは大根と炊きました。




2、筋子を塩水の中でばらします。この行程がもっとも大事で(当たり前ですが)、白い膜を丁寧に取ることでくさみのないイクラになるそうです。ぬるま湯の中でばらしてもよいというアドバイスもありましたが、卵の膜が硬くなりゴムのような食感になるという記述を読んだので、水の中で行いました。何度も塩水を取り替えます。
ばらし終えた状態です。これだけで十分に美味しそうです。写真を撮ってから下のほうに白い筋があるのを見つけたので再度洗いました。


3、醤油と日本酒、みりんをあわせたものに漬け込みます。上記のレシピ通り6:2:2の割合にしました。日本酒はいいものにすべきとあったので、料理酒ではなく飲み掛けのものを使いました。
この割合はかなり塩味が強いです。保存には適していますが、好みとしては醤油の量を少なくしてもよいと思いました。

4、漬けてから2時間で我慢できずに味見。既に美味しいです。レシピでは「2日目以降のほうが味が馴染んで美味しい」とありますが、かなり塩がきつくなると思い1日で漬け汁から引き上げました。



白いご飯と共にいただくのが一番でしょうが、クラッカーに載せても美味しかったです。大根の薄切りを添えてみました。奥にあるのはカラスミとオリーブの取り合わせです。




ウズベキスタンのイクラ

中央アジアで暮らしたご経験のある方からイクラにまつわる興味深いおはなしを伺いました。そもそもイクラはロシア語で魚卵の意味。キャビアは「黒いイクラ」というそうです。

ウズベキスタン、ロシアに魚卵ではない「イクラ」があるそうです。ナスやペッパーなどいろいろな野菜を刻んで調理したペースト状のもので、バルカン半島に行くと「アイヴァ」と呼ばれ、いづれも秋になると各家庭で大量に作り、小瓶に詰めて配るとのこと。今ほど物流のよくなかった時代には、野菜や果物が払底する長い冬に備えて準備した大切な保存食だったことでしょう。

しかしなぜイクラという名称なのでしょうか。その疑問に答えてくれるブログがありました。その部分を引用します。
ペースト状になった料理の中のナスの種がキャビアみたいだから、とか 料理した後のナスが変色してキャビアみたいな色になるから、とか キャビアに勝るとも劣らぬ美味しさだから、とか 諸説あってどれがホントか定かでありませんが、 とにかく「なすのキャビア」と呼ばれていたとしたら、 これをロシア語にすれば”ナスのイクラ”!
 ロシア料理のレシピ本の片隅に こんなことが書かれてました。
 「舶来のイクラ、ナスの(=Икра заморская, баклажанная)」 というのは、1973年にレオニード・ハイダイ氏が撮った <Иван Васильевич меняет профессию>という映画 の中のセリフです。
 ソ連邦時代にもビンに入ったナスのイクラが 店の棚に積まれてはいたが、特別な需要は無かった。 しかし、映画のヒットの後、そのセリフが名句となり、 <舶来のイクラ>を食卓に供すことが おそらくはおもてなしとされた。」
    (中略)
この映画を通じて ”舶来の(フランスの?)イクラ” は一躍脚光を浴び、 魚卵じゃないのに”イクラ”という名を冠して キャビアに引けをとらない料理として食卓に並ぶようになった。
引用終わり。
「(元)ロシア専業主記婦日/ナスのイクラはなぜいくらなのか?」より。詳細はこちらでお読みください。

野菜のイクラはどんなものなのかと思い、見つけたのが以下の諸々です。バルカン半島のアイヴァも併せてご覧ください。アイヴァ作りの画像も豊富です。


▲なすのイクラ
商品化されている瓶詰めの画像もありました。


(元)ロシア専業主記婦日/ これが「ナスのイクラ」です
http://gasaki.exblog.jp/i10

Tasting Russia/ Ikura 
http://tastingrussia.blogspot.co.uk/2009_12_01_archive.html

▲マケドニアのアイヴァ

And now, my original plan becomes a reality!/ Harbingers of winter
 http://4lew.wordpress.com/2012/10/23/harbingers-of-winter/

Life as a Peace Corp volunteer in Macedonia...Part II/ Making Ivar http://billinmacedonia.blogspot.co.uk/2010/09/making-ivar.html