5/01/2011

魂を揺さぶられる歌

車の運転をしていると、思いもよらないことが頭に浮かんでくる。そしてそれは脈絡もなく、続いていく。
人生で最初に聴いた音楽はなんだろう。
最も古い記憶は、と思いを巡らせるが、確定できず。ジャンルを絞ってみる。クラシック音楽なら、ペールギュントの「朝」だ。就学前に習っていたカワイ音楽教室の発表会の曲だった。オルガンで単純なメロディを弾いた。20人ほどの編成で、オルガンの他にも楽器があったと思う。発表会以降もどこかで聴いているはずの曲だが、ペールギュントの「朝」といえば、この時の記憶とがっちり結びついている。

記憶と結びついている曲といえば、ベートーベンの交響曲第6番「田園」ほど鮮明なものはない。「ソイレント・グリーン」というSF映画で、安楽死を選択した老人が最期に聴く曲がこれだった。未来的な意匠の室内で横たわる老人。大きなモニターには、一面色とりどりの花畑。そこに田園が大音量で流れるのだ。もし天国というものがあるのなら、こんなところなのだろうと思った。1973年の公開であるから、観たのは小学高学年だ。あまりに強い印象のため、これ以降田園を聴く機会は数多くあれど、想起されるのはあの映画のイメージだ。

物的証拠が実家にあった。1965年の流行歌のレコード。生まれて初めて親にねだって買ってもらった物だという。当時3才の私は童謡も聴いていたらしいが、全く異なるジャンル、シャンソンを選んだものだから親は驚いたという。このレコードをひとりでプレイヤーにかけ、涙を流していた。泣いていた覚えは微かにある。歌の主人公の母親が病気で亡くなる話で、当時の年齢より少し上と思われる主人公に感情移入していたのだ。そして何より、母親の保護なくては生きていけない幼児にとって、母親喪失というストーリーは衝撃が強かったのだ。

7分という長尺な歌を再び聴く。やはりこれは魂を揺さぶられる歌だ。しかし「人生で最初に聴いた音楽」ではなかった。この探索の旅はまだ続く。